マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「高柳統括もこいつに(たぶら)かされたんでしょう?仲間なんだから見逃してくださいよ」

ニヤニヤと笑いながら矢崎さんが放った言葉に、私の中の何かの回線がブチッと切れた音がした。

「いいかげんに、」
「言いたいことはそれだけか」

私の言葉に低く呻る声が被さった。

「お前の言いたいことはそれだけか!?」

「っ、」

見上げると、さっきよりももっと怒りをあらわにした高柳さんが、矢崎さんを正面から睨みつけていた。
矢崎さんはさっきとは打って変わって言葉に詰まっている。

「お前がどんなことを言い連ねようと、本当かどうかなんて、彼女を見れば分かる」

「それはっ、高柳統括がこいつに騙されているからで」

「黙れ」

冷え冷えとした声が、全ての雑音を一蹴する。

ひるんだように口を噤んだ矢崎さんに向かって刺すような鋭い声を放った高柳さんは、すばやく矢崎さんの胸ぐらを掴んでそのまま壁に押し付けた。ぐっと呻くような声が矢崎さんの口から漏れる。

「俺は今すぐお前を警察に突き出すことも、然るべき機関にその所業を訴えることもできる。もちろんグループ上部に報告することも、だ」

押し付けられて苦悶の表情を浮かべている矢崎さんは、高柳さんの言葉に目を見開き焦ったように左右に首を振る。

「二度と青水の周りをうろつくな」

矢崎さんが何度も頭を上下に振る。

「次はない」

そう言うと高柳さは矢崎さんから体を離した。
矢崎さんは壁にもたれたままゴホゴホと咽るように咳き込むと、こちらに視線を向けることなくドアの外へ消えて行った。

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