マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
バタン
ドアの閉じる音を最後に、狭い室内に沈黙が降りる。
頬に残る涙の跡と、座り込んだままの床がひんやりと冷たい。けれどそれよりも体の芯が凍てつくように寒くて、勝手に震える体を自分の腕で抱きしめた。
顔を伏せた私の視界の端に上質な革靴が映る。
それがこちらに向きを変えるのが見えた、その時――
「雪華さんっ!」
ドアが開く音と共に、幾見君が飛び込んできた。
私を見た彼が両目を見開く。
「今、あいつが…矢崎がここから出てきて……俺もしかしたらって……」
床に座り込んだ私は、髪も服も乱れ、頬には涙の跡。
何かあったと一目瞭然の状態に、幾見君の動揺がこちらまで伝わってくる。
「なにが……あいつ、……くそっ」
ドアの方を振り返って吐き捨てるように呟いた幾見君は、私の方へ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、雪華さん」
そう言って幾見君が私の肩に手を置こうとした瞬間――
「いやっ」
反射的にその手を振り払った。