マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「あ……」
自分でもそんな風に反応すると思っていなかった私は、幾見君を振り払った手を見つめる。カタカタと小刻みに震えるその手を、胸の前に引き戻し、もう片一方の手で握りしめた。
「触るな、幾見」
その声に振り向いた幾見君は、その時ようやく高柳さんの存在に気付いたようだ。
「矢崎は俺が追い払った。あとのことも考えがある」
「高柳統括……」
話しながら私のすぐ横までやって来た高柳さんは、ふわりと私の肩へ何かを掛けた。
それは彼のスーツの上着で、その温もりと甘くスパイシーな香りに包まれているのを感じ、強張っていた肩から少しだけ力が抜ける。
「青水は俺が連れて帰る」
「えっ、連れてって、」
「あとは頼んだぞ。幾見」
有無を言わせぬ声色でそう言った高柳さんは、言い終わると同時に、私の体をふわりと持ち上げた。
突然持ち上げられたことに驚いて、反射的にその体にしがみつく。大きく両目を見開く幾見君の顔が視界の端に入ったけれど、自分のことで精一杯の私にはそれを気に止める余裕はない。
「行くぞ」
小さくそう言った高柳さんは、私を抱きかかえたままミーティングルームを後にした。
自分でもそんな風に反応すると思っていなかった私は、幾見君を振り払った手を見つめる。カタカタと小刻みに震えるその手を、胸の前に引き戻し、もう片一方の手で握りしめた。
「触るな、幾見」
その声に振り向いた幾見君は、その時ようやく高柳さんの存在に気付いたようだ。
「矢崎は俺が追い払った。あとのことも考えがある」
「高柳統括……」
話しながら私のすぐ横までやって来た高柳さんは、ふわりと私の肩へ何かを掛けた。
それは彼のスーツの上着で、その温もりと甘くスパイシーな香りに包まれているのを感じ、強張っていた肩から少しだけ力が抜ける。
「青水は俺が連れて帰る」
「えっ、連れてって、」
「あとは頼んだぞ。幾見」
有無を言わせぬ声色でそう言った高柳さんは、言い終わると同時に、私の体をふわりと持ち上げた。
突然持ち上げられたことに驚いて、反射的にその体にしがみつく。大きく両目を見開く幾見君の顔が視界の端に入ったけれど、自分のことで精一杯の私にはそれを気に止める余裕はない。
「行くぞ」
小さくそう言った高柳さんは、私を抱きかかえたままミーティングルームを後にした。