マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
矢崎さんが触れた場所を一つ一つなぞるように高柳さんが触れていく。
そうされることで体に残った感触が“上書き”されていく。

高柳さんの唇も手も温かくて優しくて、矢崎さんに触られたときのような気持ち悪さは一つもない。
それどころか――

「ん、やぁっ」

着ていたパジャマのボタンがいつの間にか外されていて、そこから侵入してきた手が素肌を撫でられた瞬間、思いも寄らない声が出た。
自分の口から出たものとは思えないその声は、鼻にかかって甘ったるい。
自分でも戸惑うようなその声を、高柳さんはまったく気にも留めずにお腹の辺りを手でなぞっていく。
触れられたところが発火したみたいに熱くて、その熱がどんどん体中に広がっていく気がする。

「ここまでか?」

「ん…、」

「あいつに触られたのは、これで全部か?」

次々と与えられる初めての感覚にいっぱいいっぱいの私は、その問いにすぐに反応できなかった。
それを彼は「否」と取ったのだろう。畳み掛けるように問うてくる。

「他にどこを触られた」

「………」

「ちゃんと消毒しておかないと、ずっと後を引くぞ」

半ば脅すように言われ、私は羞恥でいっぱいになりながら微かな声でそれを口にした。
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