マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
もう顔を上げられなかった。
何が、元営業部員の意地だ。昔取ったなんとかだ。
(穴があったら入りたい……)
真っ赤になっているであろう顔を俯かせ、「すみませんでした……」と謝る。
「まあ、俺も君にさほど興味はない」
はっきりと断定され、なぜか胸がズキンと痛む。
「遠山本部長には『海外赴任の前に、家族との食事に是非』と誘われたので行ったが、君を紹介されるとは聞いていなかった」
彼も私と同じだったのだと知る。
「着いたぞ」
車は見慣れたコンビニの駐車場に入っていた。いつの間にか大きな雨粒が窓ガラスを濡らし、外の景色を滲ませている。
「降り出したな。家の前じゃなくて大丈夫なのか?」
「…大丈夫です」
自分の失態が恥ずかしすぎて、このまま逃げ去りたい。けれど私は壊れかけのブリキ人形みたいな動きになりながらも、根性で顔を右に向けた。