マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
しばらくそのままでいたが、一向に眠気は訪れず、熱で重い頭でぼんやりと考える。
(どうして…どうして高柳さんはこんなふうに私に優しくするの?)
たかが熱くらいでこんなふうにされたら、私だって絆されてしまいそうになる。これまで一人で生きていく為に培ってきた土台がグラグラと崩れそうになるのを感じて、言いようのない不安に襲われた。
元の生活に戻るのが目の前に迫った今、ここで倒れるわけにはいかないのに――
「眠れないのか?」
ごちゃごちゃとまとまらない考えを振り払いたくて小さく頭を振ると、静かな声が降ってきた。
「あの……」
「何だ?」
「私……この休みのうちにここを出ます」
言った。
言ってしまった。
口にしたら最後、後戻りは出来ないと分かっていた。でもそうすることでいっそのこと、このぐずぐずとした想いを断ち切ってしまいたかったのだ。