マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
『謝罪は目を見て』――それは人として当たり前の礼儀。
「動揺のあまり失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」
「動揺?」
「佐知子さんご夫婦の海外赴任を直前に伺って……それと、その…初対面の男性がご同席されるとは聞かされておらず……」
自分でも言い訳臭いとは思うけれど、これ以上説明しようがない。
まさか『初恋初失恋黒歴史の相手が突然現れたから』なんて言いようがない。
「そうか、君も知らなかったのか…」
さっきよりも和らいだ声に、私は一気に言葉をつなげる。
「だからと言って失礼な態度をとって良いわけではありませんでした。本当に申し訳ありません。それと、ここまで送って頂きありがとうございました。またどこかでお会いすることがあればご挨拶させてください」
『またどこかで』なんてこんな偶然、もう二度と起こるはずがない。社会人としての、ただの社交辞令。
深々と頭を下げ、助手席のドアを開けようとノブに手を掛けたその時。
―――ピカッ
車内が一瞬、フラッシュを炊いたような光に包まれた。反射的にビクっと肩が跳ねる。
数秒後、思った通り『ゴロゴロゴロ』と、あの嫌な音がした。