マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
『今は元気になることだけ考えたらいい』
高柳さんはその言葉通り、あれから私に何も言わない。
大学時代の私の告白のことも、彼の告白も。もしかしたら熱に浮かされて見た夢なのかもしれない。
けれど私がそんなふうに考えるたびに、彼の変化がそうではないと物語る。
それがなければ、私は彼が“病気の人間を放っておけない優しい人”だからと自分を納得させたと思う。
その変化とは――
「雪華。冷えるとまた熱がぶり返す」
ふわりと肩からブランケットを掛けられた。
解熱した今日、三日ぶりに湯船が気持ちよくてうっかりのぼせ気味になってしまい、ソファーで熱気を冷ましていたのだ。
「ありがとうございます」
ブランケットをきちんと掛けなおしてお礼を言うと、にっこりと微笑んで、「どういたしまして」と返された。
私のことを名前で呼ぶようになった彼は、鉄壁統括の呼び名が嘘のように、はっきりと感情の分かる表情を見せてくれるようになったのだ。