マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
約七年と十一か月前の、同じように瞳を閉じて彼を待った記憶が甦る。

あの時額に灯った温もりが、今度は確かに唇に降りてきた。
瞳を閉じてからすぐに重ねられた唇は、柔らかく温かかった。

(柔らかい……)

重ねられた唇の熱を感じながら、ぼんやりとそんなことを考える。

初めての口づけは優しく甘く、少しの間重ねられてからそっと離された。
トクントクン、心臓が鳴っている。閉じた瞳をゆっくりと開くと、柔らかく細められた瞳が私を見つめていた。
恥ずかしさも忘れてその瞳に釘づけになる。すると彼は少年のような顔で破顔した。

「~っ!」

目を見開いた私に、彼はその顔のまま口を開いた。

「ありがとう、雪華」

何に礼を言われたのか分からない。
黙ってまばたきを繰り返し三度目。再び柔らかな感触を唇に感じ、えっ、と思うと同時にちゅっという音を立て離れた。

一瞬の出来事に理解が追い付かず固まる。その間にもすばやく何度か唇を啄ばまれた。

何をされたのかやっと頭が追い付いた途端、カッと顔が熱くなった。

「可愛いな」

「~~っ」

顔だけでなく足の先から頭まで一瞬にして熱くなった。
そんな私を見ながら、顔いっぱいに笑みを浮かべた高柳さん。彼は「真っ赤な顔でも可愛いぞ?」と言ってもう一度私の唇を啄んだ。
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