マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
エピローグ
『私の処女、貰ってください!!』
綺麗な赤いリボンの掛かった箱と一緒に、突きつけられた衝撃の言葉。
それを放ったのはサークルの後輩の女の子だった。
相談があると呼び出された大学の裏庭は、雑木林になっていて周りからは見えにくく、北風が吹きつけるこの場所を通りかかる人はまずいない。
(おうみさん…だったよな?)
俺に向かって頭を下げ続ける彼女は四つ下の後輩で、黒縁眼鏡と三つ編みの真面目そうな子だった。
『ありがとう。気持ちだけ貰っておくな』
リボンの掛かった包みはきっとチョコレートだろう。今日の日付からおのずとそれが知れる。
ここ数日間、バレンタインの贈り物も告白も、すべてを断って来た。
あと一か月足らずで大学院を卒業し、内定を貰っている企業に就職する。全国規模の会社なので、どこに配属されるかは分からない。地方に配属されれば、相手とは遠距離になってしまうだろう。
それでなくても入社してしばらくは覚えなければならないことが山のようにある中、一から新しい関係を、しかも遠距離で築こうとは思えなかったのだ。
『でも、ごめん。他は貰えない。』
付き合っている相手も想う相手もいないけれど、貰えるものはなんでも貰えばいいという気持ちにはなれない。
冷たいと思われるかもしれないが、応えることが出来ない想いを受け取ることが優しさだとは思えなかった。