マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
彼女は俺のことを“初恋”だと言った。だから“はじめて”を貰って欲しかった、と。
そう説明した上で『もう言わない』と言う。
少しだけ残念な気持ちが過ぎった。

“一回だけなら――”
“据え膳食わぬは――”

そんな不誠実なことはしないとずっと思ってきたが、頬を桃色に染めて瞳を潤ませた彼女の姿に、胸の内にある庇護欲と嗜虐心を刺激される。
胸の内に沸いた欲望に、内心ひどく焦った。

手を伸ばせば届く所にある小さな体に思わず触れたくなるのを堪えるため、ギュッと両手を握りしめた時、彼女の少しだけ目尻の上がった丸い瞳が俺を捕えた。

『せめて、お願いです!ファーストキスだけでも貰ってください!!』

ハッと息をのんだ。
彼女が俺の方に顔を向けたままギュッと瞼を閉じるのが、コマ送りのように見える。

瞳を閉じた彼女の顔に、食い入るように見入ってしまう。

閉じた瞼を覆っている長い睫毛。その先についた涙の粒がキラキラと光っている。
化粧っけの無い肌は、きめ細かく透き通るように白い。桃色に染まり上気した白い肌に粉雪が落ちて溶ける。それがなぜかとても煽情的だ。

無意識に唇に目が留まる。
赤く小さなそれは、ふっくらとしていて思わず触れてみたくなる。

(可愛いな……)

吸いよせられるように顔を寄せる。
吐息が掛かりそうなほど近付いたその時、

『やくそくね!』

幼馴染の言葉が過った。
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