マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
『俺と一緒に暮らすのが嫌になった?』
突然の私の申し出に、高柳さんは驚いた顔をした後少し黙ってからそう訊ねた。
『そんなことありません……』
『じゃあ…やっぱり俺はやめて幾見にするのか?』
『はっ?なんで、』
なんでそんなことを言い出すのかと、抗議の声を上げようと顔を上げたら、怒気を孕んだ瞳とぶつかった。
『今日の帰り、幾見と二人で会ってたんだろう?』
ハッと息をのんだ。
彼がそれを知っているとは思わなかった。
やましいことは何もない。敢えて彼に言わなかったのは、余計な心配を掛けたくなかったから。ただでさえ、今週は私の体調のことでずいぶんと心配と面倒をかけてしまったのに。
言葉に詰まったことで、余計に怪しく見えたのだろう。さっきよりも怖い顔をした彼が、ソファーに座る私の前に立ちふさがった。
『雪華』
ソファーの背に片手をついた彼に覆い被さように閉じ込められて、無意識に息を詰める。
彼の長い指がスーッと私の輪郭を撫で、そのまま横髪を耳に掛けられた。
ゆっくりと耳の淵をなぞる手つきが何かを含んでいて、思わず身をすくませる。じっと私を見下ろす瞳は怒っているにも関わらず艶やかで、吸い込まれそうだった。
『答えて、雪華。答えようによっては、二度とここから出さない』