マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
束縛するような台詞に鼓動が速くなる。

本来私は自分の意思を無視されるようなことは嫌いだ。けれど、彼のこの台詞には嫌悪感が沸くどころか、キュンと胸が高鳴りさえした。
なぜなら、そう言った時の彼の表情が見たことないほどに切なげだったから。

『ちがいます!』

閉じ込められた腕の中で、私は精いっぱいの声を上げた。目線を合わせるのはちゃんと自分の意思を伝えるため。事実とはまったく違うことを“正解だ”と思われるのは我慢ならない。

『幾見君とは確かに二人で会いました』

高柳さんの眉が跳ね上がる。彼が何かを言い出す前に私は畳みかけるように言葉を続けた。

『でもそれは彼にちゃんと先週のことを詫びるためです。矢崎さんとのゴタゴタで彼にはずいぶん心配と面倒をかけたからちゃんとお礼を言っておきたかったんです。しかもあんなに心配をかけたのに最後は拒絶するような態度を取ってしまったので、それを謝りたくて』

一気にそこまで話して大きく息を吸い込む。そして少しトーンを落とし、その続きを口にした。

『会社の昼休みにでも、と思いましたが、そうしなかったのは自分の気持ちを幾見君に伝えるためです。』

私の頭上から息をのむ音が聞こえた。
高柳さんが口を開きかけたのが分かったけれど、彼が何かを言うのを遮るように私は最後まで言い切った。

『私が好きなのは高柳さんです』

高柳さんが大きく目を見開いた。

『彼にははっきりそう伝えました』

言い切ってしまってから羞恥で顔がどんどん熱くなっていく。
真っ赤になった顔を見られたくなくて、私は下を向いて彼の視線から逃げた。

『だ、だから…幾見君にするとか、ありえません……わたしはずっと…高柳さんだけが()、き、んんっ』

『好きなんです』と最後まで言い切る前に、口を塞がれた。


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