マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~


「―――で?なんで、まだ処女なの?」

じわっと頬を赤くした私に、半分呆れ顔のまどかがそう言った。

「え、えぇ…と、……なんで、かな?」

まどかは「はぁ~~っ」と大きなため息をついてがっくりと項垂れた。


熱いキスの嵐に見舞われて息も絶え絶えになりながら涙目で“同居解消”の理由を話すと、思ったよりも反対されることなく私の意見は通った。

両親のいない私にとって“同棲”するのは簡単なことだけど、もしも父母二人が生きていたらなんて言っただろう。
もちろん母一人子一人だった頃なら、母を一人残して恋人と同棲するだなんて考えられなかったけれど、普通に両親健在だったなら、私も一般女子らしく進んで同棲に踏み切ったかもしれない。その時、両親はなんて言っただろう。

『結婚するまでは別々で』
『いい大人なのだから自分たちで決めなさい』
『きちんとけじめをつけてからにするべき』

そんな台詞を想像しながら、自分はどうしたいのか考えた。

私だって好きな人とはずっと一緒にいたい。
もちろん高柳さんとは職場でも一緒だ。けれどそこでの彼は“上司”であって“恋人”ではない。
プライベートでは甘々の高柳さんだけど、会社ではやっぱり“鉄壁上司”―― 否。“鉄壁”は少し変化中のようではあるが。
なんにせよ“上司”には変わりない彼は甘いどころか、仕事上ではしっかり鬼のままだ。けれどそんな彼は家に帰れば甘い恋人に変貌する。そのギャップにその都度堪らなくときめかされてしまう。

でも、体調不良で甘えまくったからこそ、私は自分の至らなさに気付いてしまった。

(ちょっと体調や仕事のせいで料理もせずに甘えっぱなしの私は、このままだと高柳さんにの“お荷物”にしかならないわ……。せめてもう少しマシにならないと……)

幸い自宅マンションはそのままだ。同居中も時々は帰っていたので、今ならいつでも戻れる。立て直すなら今しかない。

私は『いったん自宅に戻って普通の恋人同士からやり直したい』、と彼に言ったのだ。
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