マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
《三》
三
窓際に置かれたソファーの端に座って、私は外の景色を眺める。
両手を広げても届かないくらいの大きな窓ガラスが四枚連なったそこからは、横浜湾の夜景を一望することが出来る。
両端は宝石を散りばめたかのような明るさだけど、真ん中は真っ暗。そこは海。その上にかかる橋の明かりが、暗い海面に映っている。夜の海は吸い込まれそうでどこか少し怖い。風呂上がりに羽織ったガウンの胸元をキュッと握り締めた。
高柳さんに手を引かれてやってきたのは、さっき食事をした最上階のレストランの三階下にある客室だった。
『今夜はここに泊まるつもりだ』
その台詞から、あらかじめ食事と一緒に宿泊の予約もしてあったのだと気付く。もしかしたらさっきの食事の支払いも宿泊の分と一緒にするのかも。
私に先に入浴するように勧めてくれた彼は、今は入れ替わりにバスルームに入っている。彼を待つ間、私はじっと窓の外を眺めていた。
さっきから緊張のあまり心臓が早鐘を打っている。
今日は初めから、食事が終わったら彼の家に泊まりに行くつもりだった。だからいつもより一回り大きい鞄の中にお泊りセットも入れてきたし、例の作戦のこともあって色々と心づもりはしてきた。けれど、いざとなった今、逃げ出したいほどの緊張に襲われている。はっきりいって大仕事のプレゼンの方が全然気が楽なくらいだ。
(ど、どうしよう……)
膝の上には赤いリボンのかかった箱。昨夜必死に作ったトリュフが入っている。
包装が乱れない程度に両手で握りながら、私は窓の外ばかりを見ている。そうしなければ、部屋の真ん中にある大きなベッドばかりが気になってしまうからだ。
(ホテルに泊まるってことは、そういうこと……よね?)
まどかが聞いたら『なにを今更!』と言いそうだ。
バスルームから聞こえていたシャワーの音が、いつのまにか止まっていた。