マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
番外編2 ホワイトデーのお返しに side Kota

《一》




改札口の奥から人の波が次々とこちらに向かってくる。ターミナル駅であるここは、いつも人でごった返している。そんな中、改札をくぐって外に出る人の群れの向こうに、待ち人の姿を見つけた。
青水雪華。付き合って二か月になる恋人だ。

仕事が休みの今日これから、公開したばかりの映画を観に行くため、駅で待ち合わせをしていたのだ。

彼女を車で迎えに行っても良かったのだが、実家に用事があって昨日の夜から帰っていたので、彼女の提案で駅での待ち合わせとなったのだ。



「おはようございます、滉太さん」

「おはよう」

「お待たせしてしまいましたか?」

「いや、俺もさっき着いたところだ」

「そうですか」

ホッとした様子で笑顔を見せる彼女。その様子を思わず見つめてしまう。

「……どうかしましたか?」

小首を傾げる。しばし黙ると「あっ」と短い声を上げた。

「もしかして、どこか変なところがありますか?慌てて出てきたから、ちゃんとチェックしそびれて……」

「慌てたのか?」」

「はい。ギリギリまでどっちの服を着るか迷ってしまって…あっ」

『しまった』という顔をした後、彼女はバツが悪そうな苦笑を浮かべた。

「すみません…それがなければもう一本早い電車(やつ)で来れたのに……」

申し訳なさげにそう言う彼女の首元で、花びらを模した薄紫の貴石が光る。それは先月の彼女の誕生日に俺が送ったもので、彼女はいつも大事そうに身に着けてくれている。
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