マリッジライフ・シミュレイション～鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい～

「慌てなくて良かったんだぞ？今でも待ち合わせの時間までまだ五分以上ある」

待ち合わせの時間には十分に間に合っているというのに、俺を待たせてしまったことを申し訳ないと思っている様子の彼女。『気にするな』という意味を込めて頭を撫でようとしたが、その手を途中で止めた。

「良く似合ってる」

「え？」

「そのスカート。初めてだよな？」

「……はい」

春らしい淡い黄色のスカートが彼女の足元でふわりと揺れる。
日ごろ会社では、パンツかタイトスカートで“仕事の出来るOL”というスタイル。そんな彼女のいつもと違う雰囲気に、さっきは見惚れてしまったのだ。

いつもとは違う凝った髪形を崩さないように注意しながら、そっと髪を撫でると、白い頬がわずかに染まった。

「髪も服もどっちも可愛い。……今日着てこなかった方は、次の時の楽しみにしておくな」

頬の赤みがみるみる顔全体に広がり、恥ずかしそうに俯きながら「はい」と小さな返事が返ってきた。

「行こうか」

そう言って手を取り、その細くて綺麗な指の間に自分のものを絡ませると、すこし驚いた顔でこちらを振り仰いだ彼女は、赤い顔ではにかんだ笑顔を見せてくれた。

(ああ……やばいな)

手をつないで歩きながら、これから観る予定の映画の話を彼女が話す。楽しそうにしているその顔を横目に見ながら、俺は今の自分の心境を自覚する。

(映画に行くのを中止して、今すぐ家に連れ帰りたい……)

そんなことを言ったら、映画を楽しみにしている彼女を悲しませてしまうだろうから言わないが。

(綺麗で可愛くて無自覚……困った恋人だな)

気付かれないようにこっそり息をつくと、彼女の話に相槌を打ちながら、俺は数か月前のことを思い出した。