マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「どこかで少し休もうか?」
映画の後、ショッピングモールの中の店をあちこち見回ること小一時間。荷物も大分増えたし、小腹も空いたのではないかと声を掛けると、雪華は「そうですね」と頷く。ちょうど近くにあったカフェに入った。
「昼ご飯はいいのか?」
ほどなくして彼女の前に運ばれてきた皿を見ながらそう言うと、雪華はきょとんとした顔で小首を傾げる。
「これから食べるところですよ?」
「おやつだろ?それは」
彼女の目の皿には、生クリームたっぷりのパンケーキ。見るからに甘そうなそれはどう見てもおやつだ。
「お昼です…よ?」
長い睫毛をしばたかせながら、彼女が答える。
「…相変わらずな食生活だな」
呆れながらそう言うと、彼女はきょろきょろと視線をさ迷わせたあと、俯き気味に俺を見た。
「い、いつもはこんな甘いものだけの食事はしてません…よ?今日は、その…特別で……」
俯いたまま視線だけ上げて俺を見ながら、なにやらもごもごと言い訳めいたことを言う。
職場では絶対に見ることのない上目遣い――はっきり言って死ぬほど可愛い。
「私が普通の女の子みたいに可愛いパンケーキを食べてみたかったんですが……やっぱり似合いませんでしたね」
シュンと肩を落とした雪華に、俺は慌てて声を掛ける。
「いや、似合わないなんてことはない。ただ甘いものを食事にするという感覚が俺にはなかっただけだ。せっかくだから好きなものを食べたらいいと思うぞ?」
「そうですか…?」
「ああ」
頷いてみせると、雪華はほっとした様子でパンケーキに手を付け始めた。
大きな口を開けてパンケーキの刺さったフォークを口に入れる。もぐもぐと咀嚼しながら、少しだけ目じりの上がった猫のような大きな瞳を細める。その味に満足している様子。