マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
カフェを出た後、どこか他に行きたいところは無いかと雪華に聞くと、彼女は「スーパー」だと答えた。
「何か必要な生活用品でもあるのか?」
そう俺が聞くと、彼女はじっと俺を見上げた後、
「……ハンバーグが食べたいです」
彼女がポツリと言った言葉に首を捻る。俺の質問への答えではない。
「ハンバーグ?」
「はい」
ついさっき遅めのランチを取ったけれど、もう腹が減ったのだろうか。やっぱり思った通り、パンケーキはおやつにしかならなかったのだろう。
なんにせよ、彼女から具体的に『〇〇が食べたい』という言葉が聞けるのは珍しい。
「じゃあ夜はハンバーグの美味しいレストランに行こうか」
確か近くに人気の洋食屋があったはずだ。
今からでも予約を取っておこうかと、ジャケットの胸元からスマホを取り出したところで、隣を歩く雪華が頭を振った。
「滉太さんのハンバーグがいいです」
「え?」
「滉太さんのお家で、ハンバーグを一緒に作って食べたいです……だめですか?」
伺うようにこちらを見上げてくる雪華に、俺はぐっと息を詰めた。
(ダメかって……その顔がダメだろう!)
普段はあまり見ることのない甘えるような仕草に、いますぐ彼女を抱きしめたくなる。
けれど公衆の面前でそんなことをするわけにはいかないので、繋いだ手にギュッと力を込めるだけに留めておく。
「了解」
俺が頷くと、雪華はすぐに花咲いたような笑顔を浮かべた。