マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
十四階でエレベーターを降りた私は、同僚たちと挨拶を交わしながら自分のデスクまで辿り着くと、鞄を置き椅子に腰を下ろした。
手に持っているコーヒーを一口飲むと、パソコンを起動して業務の準備をする。
現在の時刻は八時半。始業までの三十分間で出来るだけメールを捌いて今日の一日の流れを頭に入れるのだ。


しばらくすると、隣のデスクに気配がして声が掛けられた。

「おはようございます、青水主任」

「大澤さん、おはようございます」

隣の席の大澤可奈子(おおさわかなこ)さんは、契約社員だ。
主任の私にとって彼女は部下に当たるが、年も二つ上で職場歴も一年程長く、頼れるお姉さんのような存在である。

「主任の今日のタータンチェックのパンツ、素敵ですね」

「本当ですか?ありがとうございます」

少し微笑んでお礼を言うと、向かいのデスクのパソコンモニターの横から幾見君が顔を出した。

「主任は何を着ても素敵ですね」

正面をまったく見ずに「どうも」とだけ口にして、再び自分のモニターに意識を集中する。そろそろ仕事モードをオンにしないと始業に間に合わない。
向かいから幾見君が何か言う声が聞こえた気がするが、画面に集中し始めた私の意識には入ってこなかった。

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