マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
雪華は自分が男にモテていることに全く気付いていない。
同じ職場にいるから分かるが、いつも誰かしら男の視線が彼女に向けられている。その視線に彼女が全く気付いていないのは、仕事のことしか頭にないせいもあるが、彼女の自己評価が低すぎるせいもあるだろう。
学生時代のあか抜けない自分のことがいつまでも頭に残っていて、その上、昔付き合っていた矢崎から『ハリボテ女』と言われたことがしこりになっているようだ。
あんな男から言われた言葉をいつまでも覚えてられるのは癪が、俺が塗り替えて行けばいい。むしろ、雪華のことをそんなふうに侮って去って行った元恋人の愚かさに感謝したいくらいだ。おかげで俺は八年前は貰わなかった雪華の“はじめて”を貰うことが出来たから。
その矢崎だが、あの出来事の後で雪華が熱を出して寝込んでいる間に、やつが所属する首都圏第三支店の上部へと手を回し、人員交代の段取りをつけた。そして矢崎本人に電話をかけた。
『今回のこと、上部へ報告する用意は出来ている。俺が声を掛ければホールディングからしかるべき機関に報告が行くだろう。そうなればお前の未来はない。それが嫌なら二度と雪華にかかわるな』
俺の言葉にしばらく沈黙した後、矢崎は『分かった』と言って電話を切った。
そして雪華が熱で休んでいる間に、俺はそれを幾見へと伝えた。