マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

どれくらいその甘い唇を味わっていたのだろうか。
解放すると雪華はふにゃふにゃと崩れるように俺の胸に倒れ込んできた。
上気した肌や荒い息使い、睫毛を飾る雫。匂い立つような色香を纏った彼女に、湧き上がるような欲情をおぼえるが、それをグッと抑え込む。

俺にはまだやらなければならないことが残っている。
その為にわざわざ昨日は実家へも、顔を出したのだった。


昨日の夜から実家に帰っていたのは、母と義父にある報告をするためだった。
そもそも、そうすることにしたのは、前回実家に顔を出した時のこと――


決起会を前日に控えてたその日。
直前の報告のため、俺はホールディングスの当麻CEOと常務である義父の所へ報告へ行った。それを終えて常務室に寄ったところ、義妹の桃花が義父の遣いで来ていたところだった。

義妹を送って帰ってくれないか、と義父に頼まれれば断れるわけがない。
彼には大学の費用やこの会社への転職の時の恩がある。
たとえそれがなかったとしても、俺を家族の一員として大事にしてくれる“父親”の頼みを断ることも、可愛い“妹”を暗い夜道を一人で返すことも出来るわけがないのだ。

常務室を出る時に義父から『今日は早く帰るから一緒に夕飯を取ろう』と、念を押された。そう言われたのは、正月に日帰りでしか顔を見せなかったせいもあっただろう。

家族の揃った正月二日の昼。ホテルで取った俺は、その足で自宅マンションに帰った。そのまま実家に泊まっていたら、積雪のせいで翌日夜まで帰れなかっただろう。我ながら良い判断だったと思う。カミナリからも幾見からも雪華を守れたのだから―――
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