マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
桃花を送って実家に帰ると、ちょうど仕事が休みだった母がいた。
母は現在大きな総合病院の看護部長を務めている。
離婚後の母はバリバリと仕事に励み、長嶺の籍に入った今も会社役員の妻としての役目もこなしつつ、看護師としての仕事にも熱を注いでいる。彼女はとても忙しい人だ。
そんな忙しい母に捕まるように、ここぞとばかりにあれこれと用事を言いつけられ(電灯が切れただの、庭木の蜂の巣を何とかしろだとか、細々したことが次から次と沸いてくる)、そうこうするうちに義父が帰宅し久しぶりの実家での団欒となったのだった。
(青水は一人でちゃんと夕飯を食べているだろうか―――)
四人で囲む食卓を前に、家にいるだろう彼女のことが気にかかった。放っておくと枝豆とビールだけで食事を済ませてしまう彼女が、ここ最近は前よりも血色がよく見えるのは俺の欲目だろうか。
そんなことを考えていたことが、表情に出ていたのだろうか――
母親とは厄介なもので、息子の表情の微妙な違いを読んでしまう。
『そういえば滉太――』
『なんだ、母さん』
『あなた、遠山さんのお知り合いのお嬢さんと一緒に住んでるのよね?』
直前に口にした吸い物が、喉に詰まる。
母は、ゴホゴホと思い切り咽込む俺を欠片も心配する様子はなく、言葉を続ける。
『どんなお嬢さんなのか、どうしてそうなったのか、ちゃんと私が納得いくように話さないと―――分かってるわよね?』
微笑んだ母の瞳はまったく笑っておらず、俺が口を割るまで次々と酒を飲まされた。
そしてひと通り俺に小言を言った母は、最期にこう言ったのだ。
『ちゃんとけじめをつける気になったら、まずはあなたが一人で報告に来なさい。そうじゃないと、うちの婚活看護師と次々に見合いさせるわよ』
酔いが回る頭でも、母の言葉が空恐ろしく感じる。やると言ったら絶対やるのは、昔から変わらない。
その夜俺は母に潰されるまで飲まされ、気付いたら朝になっていた。
我が家で一番の酒豪は母なのだ。
母は現在大きな総合病院の看護部長を務めている。
離婚後の母はバリバリと仕事に励み、長嶺の籍に入った今も会社役員の妻としての役目もこなしつつ、看護師としての仕事にも熱を注いでいる。彼女はとても忙しい人だ。
そんな忙しい母に捕まるように、ここぞとばかりにあれこれと用事を言いつけられ(電灯が切れただの、庭木の蜂の巣を何とかしろだとか、細々したことが次から次と沸いてくる)、そうこうするうちに義父が帰宅し久しぶりの実家での団欒となったのだった。
(青水は一人でちゃんと夕飯を食べているだろうか―――)
四人で囲む食卓を前に、家にいるだろう彼女のことが気にかかった。放っておくと枝豆とビールだけで食事を済ませてしまう彼女が、ここ最近は前よりも血色がよく見えるのは俺の欲目だろうか。
そんなことを考えていたことが、表情に出ていたのだろうか――
母親とは厄介なもので、息子の表情の微妙な違いを読んでしまう。
『そういえば滉太――』
『なんだ、母さん』
『あなた、遠山さんのお知り合いのお嬢さんと一緒に住んでるのよね?』
直前に口にした吸い物が、喉に詰まる。
母は、ゴホゴホと思い切り咽込む俺を欠片も心配する様子はなく、言葉を続ける。
『どんなお嬢さんなのか、どうしてそうなったのか、ちゃんと私が納得いくように話さないと―――分かってるわよね?』
微笑んだ母の瞳はまったく笑っておらず、俺が口を割るまで次々と酒を飲まされた。
そしてひと通り俺に小言を言った母は、最期にこう言ったのだ。
『ちゃんとけじめをつける気になったら、まずはあなたが一人で報告に来なさい。そうじゃないと、うちの婚活看護師と次々に見合いさせるわよ』
酔いが回る頭でも、母の言葉が空恐ろしく感じる。やると言ったら絶対やるのは、昔から変わらない。
その夜俺は母に潰されるまで飲まされ、気付いたら朝になっていた。
我が家で一番の酒豪は母なのだ。