マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

「雪華。俺と結婚してほしい」

「っ、」

「雪華と一緒にいると俺は色々な初めてに気付く。これまでのとは全く違う自分に出会う。それがとても嬉しい」

「バレンタインに雪華の大事な“はじめて”を貰ったお返しに、俺のこれからの“はじめて”をすべてお前にやる。これからの俺の人生は全て雪華のものだ」

黙って俺を見つめる雪華の瞳が、ゆらゆらと揺れて光る。

「亡くなったご両親の分まで大事にする。これからはずっと一緒にいよう」

黙ったままの彼女の顔を覗き込むと、大きな瞳いっぱいに涙を溜め、唇を震わせている。その姿に胸の底から愛しさがこみ上げる。

彼女をめいっぱい甘やかしたい。どろどろに蕩けるほど甘やかして可愛がって、俺なしではいられなくしたい。

守りたい大事にしたいと思いながらも、そんな劣情に駆られてしまう。そんな自分に苦笑が漏れそうになる。

「雪華……返事は?」

軽く首を傾けながら顔を覗き込むと、雪華は震える唇を開き、小さく「はい」と言った。
頷いた拍子に彼女の瞳から大粒の涙がぽろっと零れ落ちた。

ビロードの小さな箱を開け、取り出したものを彼女の左手の薬指にはめる。
一粒ダイヤが輝く繊細な白銀のリングは、彼女の白く細い指にとても似合っていた。

涙をこぼしながら食い入るように自分の指を見つめている雪華を、俺はそっと抱きしめた。
< 313 / 336 >

この作品をシェア

pagetop