マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「裕子さんの…お義母さんとお義父さんのお墓にご挨拶に行かないとな」
腕の中で雪華が嗚咽を漏らす。その背中をそっと撫でながらゆっくりと語りかける。
「遠山ご夫妻にご報告と、あとは雪華の親友にも」
雪華はとうとうしゃくりあげて泣き出した。彼女の頬を濡らす涙を手で拭って、額にそっと口づけを落とす。
雪華は涙に濡れた瞳で俺を見上げる。
「わ、たしも…、滉太さんのご家族に、…ご挨拶したいです」
「ああ、そうだな。雪華に会うのをみんな楽しみにしている」
「えっ、たのしみ……!?」
「義父と母には昨日報告しておいた。次は彼女を連れて帰ると」
「ええっ!!」
大きな瞳を見開いて固まっている雪華の顔を見ながら、ふとあることに気がついた。
「そういえば、家族に恋人を紹介するのは初めてだ」
「そう…なんですか?」
「ああ。また一つ“はじめて”が増えたな」
「……うれしいです」
「それはそうと、雪華」
「はい」
「ずっと気になっていたのだが、いつまで俺に敬語を使っているんだ?」
「え…っと……」
「婚約者に他人行儀にされるのは、けっこう寂しいな」
「うっ……、気を付けま……気を付ける…ね」
「よし」