マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
コミカライズ感謝SS 妻は鉄壁上司を最愛で癒したい
滉太さんが熱を出した。
思えば昨日の朝から様子がおかしかった。
フライ返しで味噌汁をすくおうとしていたし、エプロンも裏表逆だった。普段の彼なら絶対にありえない。
遅くとも、五月半ばというのにコートを羽織って出勤したところで、異変に気づくべきだったのだ。
それなのに私ときたら、『滉太さんも人間だもの。たまにはそういうこともあるよね』と軽く流してしまった。
違和感を放置するなんて、部下としても婚約者としても失格だ。
仕事中はまったくミスをする気配もない相変わらずの鉄壁上司ぶりを発揮していた彼は、帰ってくるなり倒れ込むようにベッドに入った。
『疲れが溜まるとたまにこうなるんだ。寝れば治るから心配するな』
掠れた声を絞り出すようにして私に言った後、彼はこんこんと眠った。朝いったん起きてきたものの、薬を飲むとすぐにベッドへ戻っていき、それから今に至る。もう昼だ。
今日が土曜日で本当によかった。
滉太さんに疲れが溜まるのも当然と言えば当然。
東京五輪に合わせた一大プロジェクト【TohmaBeer-Hopping】の実施がすぐ間近に迫り、激務オブ激務。それなのに彼は、例によって汗ひとつ流さず鬼のように仕事をこなしている。
その上、家に帰っても料理に手を抜かない。当番制になっている夕食作りも代わってくれることも少なくない。料理をするのが好きだという言葉に甘えすぎてしまった。
心配と申し訳なさと反省の間でぐるぐると回り続ける思考を、私は無理やり止めた。
落ち込むのは後からいくらでもできる。今はとにかく彼が元気になることが優先事項なのだ。