マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
 だめよ。今はそんなことを思い出している場合じゃないでしょ。

 火照った顔を片手でぱたぱたと仰いでいたら、ダイニングテーブルの上でスマホが音を立てた。

「わっ」

 ダイニング横の扉は寝室だ。眠っている滉太さんを起こしてはいけないと慌ててスマホを手に取る。親友のまどかからのメッセージだ。
 スマホの着信をバイブ設定にしてから、トーク画面を開いた。

【ゆっかちゃんお久しぶりー! 元気してる?】

 画面から鈴を転がすようなかわいらしい声が聞こえてきそうだ。
 メッセージの続きには、明日の午後、用があって近くまで来るのでお茶しないかというお誘いだった。

 半年前に第二子のなごみちゃんを出産してから、まどかに会ったのはほんの数回程度だ。
 産後で大変なときだから邪魔をしてはいけないとメッセージもなるべく控えていたら、突然『高柳(たかやなぎ)さんとラブラブで私のこと忘れてない?』と拗ねる〝ふり〟をされた。私がいつも甘えたり頼ったりするのを遠慮してしまうので、わざとそういうふうに言ったのだ。

 それ以降、近況報告からたわいないおしゃべりまで、メッセージでやりとりをする回数が増えた。

 私は元気だけど滉太さんが体調を崩しているから今回は遠慮するね、と返信したら、すぐに【大変!】と慌てたネコのスタンプがつく。

 そうだ、まどかに聞いてみたらいいかも。
 結婚して四年、二児の母である彼女なら看病のノウハウもばっちり教えてくれるに違いない。

 さっそく尋ねると、基本は水分と食べられるときに食べられるものを取り、しっかり眠って体を休めることだと返ってきた。
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