マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
【簡単そうに聞こえるけど、小さな子どもは自分で上手く説明できないから突然容態が悪化したりして、気が抜けないんだよね】

 なるほど。容態の悪化には気をつけるべし。

 スマホを片手にメモを取っていると、すぐに次のメッセージが来る。

【高柳さんは大人だから、時々様子を見るくらいで大丈夫だと思うけどね】

 あ、そうか。子どもじゃないんだもの。

【ゆっかちゃんがしてもらってうれしかったことを、高柳さんにもしてあげればいいんじゃない?】

 それができないから困っているの。

 とはいえ、親身になって教えてくれるまどかに文句など言えるはずがない。

 結局私ができることはないのかと落ち込みかけたところで、画面を見て思わず「えええ!」と声が飛び出した。

【熱で汗をかいていると思うから、体を拭いてパジャマを代えてあげたら? すっきりすると思うよ】

 パっ! 体を拭いてって……裸にして?

【それ以外にどうやると思うの?】

 む、無理!

【じゃ、がんばってね、ゆっかちゃん!】

 大きな瞳をくりくりとさせたネコが手を振るスタンプを前にしばらく動きを止めた後、勢いよくテーブルに突っ伏した。初心者にはレベルの高すぎるアドバイスだ。

 そもそも、私に体を拭かせるのを滉太さんがよしとするだろうか。あっさり断られる気がする。

 この線はなし! 他のことでがんばることにしよう。うん。

 とりあえず今のうちにドラッグストアにでも行ってこようか。店内を一周しているうちになにか思いつくかもしれない。
 バッグにスマホを入れて立ち上がったとき、インターホンが鳴った。

「うわっ」

 スマホの通知音よりも何倍も大きな音に慌てる。滉太さんが起きてしまうじゃないか。
 宅配便でも来たのだろうと思い室内モニターをのぞいたら、そこ映っている人物を見て驚いた。
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