マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
エレベーターから降りてすぐに、エントランスホールのソファーにアッシュブラウンのウェーブヘアを見つけ、小走りに駆け寄った。
「幾見君、突然どうしたの?」
インターホンを鳴らしたのは幾見侑吾――五輪企画チームに入っている我が社のホープだ。
「急に押しかけたりしてすみません。これ、高柳統括に渡してもらえますか?」
差し出された紙袋にはクリーニング済みのシャツとタオルが。
いったいどういうこと?
困惑していたら、幾見君が言いづらそうに視線を落とした。
「高柳統括の具合はどうですか?」
「熱が高くて今は寝てるの、ってなんでそのことを」
驚く私に彼は眉を下げる。
「やっぱり悪化したんだ……。俺のせいです」
「どういうこと?」
一昨日は幾見君と滉太さんのふたりで出張に出ていた。行き先は関東第一工場。本社から近いので日帰りだった。
幾見君の話によると、ランチのときに工場の外に出て通り雨に遭ったらしい。バケツの水をひっくり返したような雨で、ものの数分のうちにびしょ濡れになったと言う。
「工場には社食もあるのに、俺が外に食べに行きましょうって誘ったばっかりに……」
心底申し訳なさそうにうなだれる幾見君から紙袋を受け取る。
滉太さんは車に積んでいた予備のシャツとタオルを、自分は大丈夫だからと彼に貸してあげたそうだ。
その後、冷房の効いた部屋で会議だったので、冷えたのではないかと彼は言った。
滉太さんらしいなと思った。彼は仕事に関しては鬼神のようだが、実は情に厚くてとても面倒見がよい。幾見君のことも自分が守るべき対象なのだ。
出張の翌日である今日一日、幾見君は滉太さんの様子が微妙にいつもと違うことに気がつき、ひょっとしたら風邪を引いたのかもと心配になったみたいだ。
「大丈夫。滉太さんは少し疲れが溜まっていたみたいで、今はぐっすり眠っているけど、すぐによくなるわ」
あなたのせいじゃないわよという私に「はい」とも「いいえ」とも答えることなく、幾見君は頭を下げてから帰っていった。
「幾見君、突然どうしたの?」
インターホンを鳴らしたのは幾見侑吾――五輪企画チームに入っている我が社のホープだ。
「急に押しかけたりしてすみません。これ、高柳統括に渡してもらえますか?」
差し出された紙袋にはクリーニング済みのシャツとタオルが。
いったいどういうこと?
困惑していたら、幾見君が言いづらそうに視線を落とした。
「高柳統括の具合はどうですか?」
「熱が高くて今は寝てるの、ってなんでそのことを」
驚く私に彼は眉を下げる。
「やっぱり悪化したんだ……。俺のせいです」
「どういうこと?」
一昨日は幾見君と滉太さんのふたりで出張に出ていた。行き先は関東第一工場。本社から近いので日帰りだった。
幾見君の話によると、ランチのときに工場の外に出て通り雨に遭ったらしい。バケツの水をひっくり返したような雨で、ものの数分のうちにびしょ濡れになったと言う。
「工場には社食もあるのに、俺が外に食べに行きましょうって誘ったばっかりに……」
心底申し訳なさそうにうなだれる幾見君から紙袋を受け取る。
滉太さんは車に積んでいた予備のシャツとタオルを、自分は大丈夫だからと彼に貸してあげたそうだ。
その後、冷房の効いた部屋で会議だったので、冷えたのではないかと彼は言った。
滉太さんらしいなと思った。彼は仕事に関しては鬼神のようだが、実は情に厚くてとても面倒見がよい。幾見君のことも自分が守るべき対象なのだ。
出張の翌日である今日一日、幾見君は滉太さんの様子が微妙にいつもと違うことに気がつき、ひょっとしたら風邪を引いたのかもと心配になったみたいだ。
「大丈夫。滉太さんは少し疲れが溜まっていたみたいで、今はぐっすり眠っているけど、すぐによくなるわ」
あなたのせいじゃないわよという私に「はい」とも「いいえ」とも答えることなく、幾見君は頭を下げてから帰っていった。