マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「や、やばいわ……」
白い湯気がふわりと立ちのぼる炊飯器を見下ろしながらつぶやいた。
別におかゆを失敗したわけではない。やばいのは、熱のある滉太さん――を見る自分だ。
気だるげで妙に色っぽいくせに、甘えるような仕草がかわいすぎて、床を悶え転がりそうになった。これが〝キュン死〟というやつか。
普段から彼は私を甘やかしてくれることはあっても、甘えてくることはめったにない。
まどかには年上の恋人に甘えられたときの対処法を伝授してもらえばよかった。
同い年の幼なじみとの初恋を成就させた彼女が、年上の男性との交際スキルに長けているかは謎だけれども。
とにかくこれ以上具合の悪い滉太さんを不埒な目で見るわけにいかない。
「心頭滅却煩悩退散…!」
しゃもじを握りしめて小声で唱え、具合の悪い彼をあまり待たせてはいけないと、気合を入れた。
おかゆの入ったお椀と蓮華、梅干しと塩が入った小皿とスプーン。それらをトレイの上にセットし、きちんとマスクも着けた。滉太さんが私に移すことを気にしたらいけない。
「準備よし!」
トレイを手に寝室のドアを開けると、ヘッドボードに寄りかかる滉太さんと目が合った。
「お待たせしてごめんね。横になってなくて大丈夫?」
「ああ。よく寝たから今は平気だ」
たしかに、声はかすれているけど顔色はそこまで悪くないかも。じっと見ていたら、どこからともなくピピピという電子音が。滉太さんが胸もとから取り出した体温計を「ほら」とこちらに向ける。
「三十七度四分。よかった、下がってるわ」
ほっと胸をなで下ろす。昨夜計ったときは三十八度を超えていたので、どうやら快方に向かっているようだ。
後で幾見君にも連絡をしてあげよう。
滉太さんの具合をずいぶん気にしていた彼のことを思い出しながら、おかゆの入ったお碗を差し出した。それなのにどういうわけか、彼はなかなか受け取らない。
白い湯気がふわりと立ちのぼる炊飯器を見下ろしながらつぶやいた。
別におかゆを失敗したわけではない。やばいのは、熱のある滉太さん――を見る自分だ。
気だるげで妙に色っぽいくせに、甘えるような仕草がかわいすぎて、床を悶え転がりそうになった。これが〝キュン死〟というやつか。
普段から彼は私を甘やかしてくれることはあっても、甘えてくることはめったにない。
まどかには年上の恋人に甘えられたときの対処法を伝授してもらえばよかった。
同い年の幼なじみとの初恋を成就させた彼女が、年上の男性との交際スキルに長けているかは謎だけれども。
とにかくこれ以上具合の悪い滉太さんを不埒な目で見るわけにいかない。
「心頭滅却煩悩退散…!」
しゃもじを握りしめて小声で唱え、具合の悪い彼をあまり待たせてはいけないと、気合を入れた。
おかゆの入ったお椀と蓮華、梅干しと塩が入った小皿とスプーン。それらをトレイの上にセットし、きちんとマスクも着けた。滉太さんが私に移すことを気にしたらいけない。
「準備よし!」
トレイを手に寝室のドアを開けると、ヘッドボードに寄りかかる滉太さんと目が合った。
「お待たせしてごめんね。横になってなくて大丈夫?」
「ああ。よく寝たから今は平気だ」
たしかに、声はかすれているけど顔色はそこまで悪くないかも。じっと見ていたら、どこからともなくピピピという電子音が。滉太さんが胸もとから取り出した体温計を「ほら」とこちらに向ける。
「三十七度四分。よかった、下がってるわ」
ほっと胸をなで下ろす。昨夜計ったときは三十八度を超えていたので、どうやら快方に向かっているようだ。
後で幾見君にも連絡をしてあげよう。
滉太さんの具合をずいぶん気にしていた彼のことを思い出しながら、おかゆの入ったお碗を差し出した。それなのにどういうわけか、彼はなかなか受け取らない。