マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「どうかした?」

 なにか変なところでもあるのだろうか。滉太さんがしてくれたように土鍋で作るのは無理だけど、炊飯器なら自分でもそれなりにできたと思ったのに。

 これはおかゆじゃない、なんて言われたらどうしよう……。

 一瞬にして緊張と不安が頭をもたげたとき、滉太さんはちらりと視線だけをこちらに寄こした。

「食べさせてくれないのか?」
「食べっ…!」

 驚きで声が大きくなり、続きを慌ててのみ込んだら喉が詰まりかけた。ごほごほとむせながら、顔が見る見る赤くなっていく。

 普段より気だるげな瞳にじっと見つめられて、鼓動が早鐘を打つ。そんな目で見られたら、できるものもできなくなってしまいそう。

 いいえ、雪華! 今こそ出番じゃないの!
 できることがないとあんなに悶々としていたのだから、滉太さんからの要望を聞かない手はない。

 蓮華を手に取り、ごくんと唾を飲み込んだそのとき。

「冗談だ」

 お椀が手から引き抜かれた。滉太さんはくつくつと肩を揺らす。

 か、からかわれた…!

 じっとりと上目使いににらんだが、彼はどこ吹く風だ。「うまい」とひと言つぶやいた後、次々におかゆを口に運んでいく。その食べっぷりに、正直ほっとした。
 昨夜、高熱でつらそうだったことを思えば、冗談を言う余裕ができたのだから喜ぶべきなのかも。
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