マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

 キッチンでお湯を入れたボウルとタオルを準備し、滉太さんのところへ戻った。

「お待たせ」

 ボウルにタオルを浸す。熱湯とまではいかないが、熱めのお湯に手のひらがぴりりとする。我慢しながらぎゅっと固く絞った。

「これで顔を拭いてね」
「ありがとう」

 滉太さんは受け取ったタオルを顔に当てると、ほうっと息をついた。

「気持ちがいいな」

 熱とおかゆでかなりの汗をかいていたようなので、顔を拭くだけでも違うのだろう。だけどこれで終わりではない。
 本番はここからだ。がんばるのよ、雪華!
 気合を入れて滉太さんのパジャマのボタンに触れた。

「雪華?」

 つむじに彼の視線を感じるけれど、あえてそちらは見ずに黙ってボタンを外す。
――が、指先が滑ってなかなか外すことができない。

「自分でできるから大丈夫だ」
「う、うん」

 パジャマを脱ぐのは滉太さんに任せることにして、再びタオルを濡らす。執拗なほどぎゅうぎゅうと絞ってから顔を上げた瞬間、心臓がひときわ大きく脈打った。
 あらわになった上半身が、目に飛び込んできたのだ。

 広い肩幅と隆起した二の腕、分厚い胸板や見事に割れた腹筋。スーツを着ているときはすらりと細見に見えるのに、実際はかなりたくましい。

 目のやり場に困って視線をさ迷わせたら、滉太さんの手がこちらに伸びてきた。反射的に背中がびくんと跳ねる。
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