マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「ばっっかみたい…」
思いっきり自分への罵声を口にして、ビールの缶をぐいっとあおる。ひとりっきりの自宅に相槌を打ってくれる人はいない。
帰宅してすぐシャワーを浴びた私は、膝丈のハーフパンツに首のよれたTシャツというゆるい恰好で、ビール片手にラグの上で胡坐をかきながらやさぐれていた。
コンタクトを外して愛用の黒縁眼鏡、外では斜めに流している前髪をクリップで止め、普段は隠しているおでこも全開にしている。
外では“きちんと”した格好で武装している分、家にいる時くらいは自分が一番楽だと思える姿でいたいのだ。
目の前のロウテーブルにある皿から枝豆を口に入れて、もぐもぐと噛みしめた。
「『私に気付いたらどれほどびっくりするだろう』なんて……そわそわしていた私のばかっ!」
朝礼で彼の姿を見てからずっと落ち着かず、気もそぞろで仕事に集中できなかった。
その上、浅川本部長に連れられて挨拶した後からはもやもやし、それが次第にイライラに変わって今に至る。
勢いよく缶の中身をあおると、あっという間に空になってしまう。
週末以外は一缶だけ、と自分を戒めているのを破って、二缶目を取りに冷蔵庫へ向かった。