マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
シャツ上にジレだけを纏った彼は、スラリと長い脚を軽く交差させて入口に寄りかかっている。捲りあげた袖から覗く腕は太く逞しい。
逆光で顔は良く見えないが、誰なのか問うまでもない。
私が返事をしないでいると、彼の方からこちらへやってきた。
「気持ちが悪いとか痛いところはないか?」
「……はい」
「そうか」
高柳統括はそれだけ言うと、あとは何も言わずじっと私を見降ろす。
睨むのでも見つめるでもなく、ただ観察するようにじっと見てくる彼の視線に、私は段々落ち着かなくなってきた。
「あの…これ……」
何か、何でもいいから私から視線を外して欲しくて、咄嗟に手に持っていた上着を彼へと差し出した。
「掛けて下さったんですよね?ありがとうございます」
「ああ…」
受け取った上着を腕に掛け、「大丈夫か?」と訊ねた彼の言葉に「大丈夫です」と返す。
「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません。それとここまで運んでいただいたことも……」
しっかりと目を見て謝罪を口にした後、頭を下げる。
「いや、大丈夫ならもういい。君は……」
高柳統括は何か言いかけたが、「いや、いい」と言って口を閉じた。