マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
母の死後、子どものいない彼女とその夫は、私のことを本当の娘のように気に掛けてくれた。親戚のいない私にとって、いざという時に頼りに出来るのは佐知子さん夫婦だけなのだ。
それなのに、その二人が遠い異国に行ってしまうなんて―――。

「雪ちゃん一人を日本に置いていくのは、私も心配なのよ…。裕子さんが生きていたらそんな心配もいらなかったんだけど……」

呆然とする私を、佐知子さんは心配そうに見る。
少しの間、しんみりとした空気が私たちの間に漂う。けれどそれは佐知子さんの次の言葉によってすぐに破られた。

「だからね、雪ちゃん。雪ちゃんのことを任せられる相手を紹介しようと思って」

さっきまでのしんみりとした空気を一変するように、明るいトーンで発せられた言葉に、私は目を見開いた。

「私を任せらせる、って…」

どういうこと?と問おうとしたその時、レストランスタッフがやってきた。

「お連れ様がいらっしゃいました」

その言葉に顔を上げる。するとスタッフの後ろの方から佐知子さんの夫である紀一さんがこちらに向かって歩いてくるところだった。

紀一さんの後ろに背の高い男性がいるのが見える。
標準的な身長の紀一さんよりも頭一つ分高いその人の顔に、何気なく視線を移した時――

「っ!」

思わず息を飲み込んだ。

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