マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
デスクに置いてある鞄を取ってきたあとは、高柳統括の後ろを大人しく着いて行った。
黙ったままエレベーターに乗り、地下駐車場まで行く。駐車場はガランとして他の車はまったく無く、ポツンと置かれた黒い車が彼のものだとすぐに分かった。
「どうぞ」
「…お邪魔します」
二度目になる彼の車に慎重に乗り込む。
一度目も感じたが、彼の車には余計な物は何も置いておらず、ゴミやほこりも見当たらない。ものすごく高級な車ではないが、なんとなく汚してはいけないような気になってしまう。
運転席に座った高柳統括がエンジンを掛け、それからラジオをつけた。すぐに聞こえてきた台風情報に黙って耳を傾けた。
―――台風十七号は、非常に強い勢力を保ったまま、きょうの午前中から昼過ぎにかけ東日本に接近または上陸し――
気を失っている間に、いつのまにか日付が変わってしまっていたようだ。
「私のせいでこんな時間まで統括をお引止めしてしまって、申し訳ありません」
「いや…大事に至らなくてよかった。急に倒れたから病気か何かと思ったから焦ったが」
「すみませんでした。……私、カミナリがダメなんです…トラウマがあって………」
「……そうか」
統括はそれ以上何も聞かずにいてくれた。