マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
ドクン――
心臓が大きく波打った。顔がみるみる赤くなっていくが自分でも分かる。
目を見開いて固まってしまった私には気付かず、彼はローテーブルの昆布おにぎりを手に取り、「いただきます」と言っておにぎりのフィルムを剥がし始めた。
(は…反則だわ…………)
再会してから初めて彼が私に向けた微笑みは、私の心臓を鷲掴みにするのに十分な威力を持っていた。
心臓がうるさく音を立て、体がじわじわと熱くなっていく。
白いTシャツからⅤネックからのぞく鎖骨。筋張った逞しい腕。額に掛かる、サラリとした洗いざらしの髪。
職場では見ることのない、そして、あの“お見合い”の時とも違う、まったくのプライベートの姿。
今更ながら、高柳さんのプライベートな空間に二人きりでいるのだという現実に、私はひどく緊張しはじめた。