マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

「……お疲れ様です…………」

空けてもらった缶に口を付ける。

【トーマラガー】は、しっかりとした喉越しとホップの香りが自慢の、私が一番好きな自社商品だ。いつもなら水のようにグビグビと三分の一ほどは一気に飲んでしまうのだが、何故か今はいつものように喉を滑って行かない。二口ほど飲んだビールをテーブルに置くと、私は目の前にあるチーカマに手を伸ばした。

「いきなりそれか、青水」

「えっ、ダメですか?」

「ダメ、じゃないが…それはつまみだろう?」

「今食べても後で食べても、お腹に入れば一緒ですよね?」

怪訝そうな顔をした彼に、首を傾げながら仕方なく別のものにも手を伸ばす。手に取った袋の両端を持って開封しようとすると、目の前の人がスッと立ち上がった。

「皿を取ってくる」

そう言うと、彼はキッチンへ向かって行った。

程なくして戻ってきた彼が置いた皿の上に、袋の中身をザザザッと全て出すと、こんもりとした緑の山が出来た。

「パンもあるのに迷わずチーカマと枝豆をチョイスする……青水の食生活はどうなっているんだ……」

高柳さんが皿から枝豆を一つ手に取り、呆れたように呟く。

「豆は体に良いのです」

「確かにそうだが、それより前に食べるものがあるだろう」

さっきから彼が怪訝そうにしている理由がなんとなく分かって来た。
「えっと、もう夜遅いので炭水化物はあまり必要ないかと……」

「ダイエットか?それこそ必要ないだろう?」

「………そういうわけでも……」

案に『太っていない』と言われたのは嬉しいが、別にダイエットの為に枝豆を食べるわけではない。

「枝豆が好きなんです」

事実を言えば納得してもらえるかと思ったが、敏腕GMを納得させられる理由ではなかったらしい。
それから私は、何か言いたげな視線から逃れるように、せっせと枝豆の山を制覇することに専念した。


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