マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
『相変わらず人の話を聞かない』と言う台詞に、私は目を見開いた。
それはあの“お見合い”の日のことを示唆している。

トーマビールで再会してからこれまで一度もあの日のことは話題に上らなかった。
私達は『はじめまして』なのだから。

「……あの時は大変失礼いたしました」

「あの時もきちんと謝罪を受けたから、気にしていない。」

「ありがとうございます。統か…高柳さんは覚えていらっしゃったんですね、私のこと」

「少し前に食事をした相手のことを忘れたりしないだろう」

「です、よね…」

「そういう青水こそ覚えてないのかと思っていたが」

「ちゃんと覚えていましたよ」

(もっと前からずっと忘れていません)

心の中だけでその言葉を付け足す。

(私が“ちゃんと”覚えているのは、お見合いの日のことではなく大学サークルの時からですが)

一瞬口走りそうになった言葉を飲み込んで、それとは違うことを口に出す。
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