マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「でも高柳統括が『はじめまして』とおっしゃったので、私のことを覚えていらっしゃらないのだと思っていました」
「あの場で『お見合いの時はどうも』とでも言って欲しかったのか?」
「……それは困ります」
そんなことが職場でバレてしまったら、間違いなく仕事がやりづらくなっただろう。なんたって相手は独身女性がこぞって釣り上げたくて堪らない“イケメンエリート様”なのだ。どんなに鉄壁統括と陰で言われていたとしても、それを上回るほどの人気が彼にはある。
瞬時に色々なことが頭を巡っていた私を見ながら、高柳さんは「それはそうと、」と続けた言葉に動きを止めた。
「青水はベッドルームを使いなさい」
「え、」
「シーツは替えておいた」
「いや、あの、私はソファーで十分」
「襲って欲しいのか?」
目を見開いて、ひゅっと息を吸い込んだ。
正面からじっとこちらを見つめる彼は真顔で、目元も口元も少しも緩む気配はない。
射すくめられた私はその場で固まったまま口を開くことも出来ない。
「職場の女に手をつけるほど困ってはないが、俺も男だ。据え膳を喰わないほど馬鹿じゃない」
(困ってないんだっ!)
余裕はないのに余計なことに突っ込みを入れてしまうほど、私はパニックに陥っていた。
(鉄壁はどこにいったのよ~~っ!)
経験豊富な女性なら、転がり込んできたこの状況を『一晩だけでも』と愉しむことが出来るのだろうけど、私にはそんなことは無理。
だって私は―――
「冗談だ」
「はっ?」
「冗談だと言っている」
彼が言っていることを理解するまでの間に、たっぷり十秒はかかった。
「あの場で『お見合いの時はどうも』とでも言って欲しかったのか?」
「……それは困ります」
そんなことが職場でバレてしまったら、間違いなく仕事がやりづらくなっただろう。なんたって相手は独身女性がこぞって釣り上げたくて堪らない“イケメンエリート様”なのだ。どんなに鉄壁統括と陰で言われていたとしても、それを上回るほどの人気が彼にはある。
瞬時に色々なことが頭を巡っていた私を見ながら、高柳さんは「それはそうと、」と続けた言葉に動きを止めた。
「青水はベッドルームを使いなさい」
「え、」
「シーツは替えておいた」
「いや、あの、私はソファーで十分」
「襲って欲しいのか?」
目を見開いて、ひゅっと息を吸い込んだ。
正面からじっとこちらを見つめる彼は真顔で、目元も口元も少しも緩む気配はない。
射すくめられた私はその場で固まったまま口を開くことも出来ない。
「職場の女に手をつけるほど困ってはないが、俺も男だ。据え膳を喰わないほど馬鹿じゃない」
(困ってないんだっ!)
余裕はないのに余計なことに突っ込みを入れてしまうほど、私はパニックに陥っていた。
(鉄壁はどこにいったのよ~~っ!)
経験豊富な女性なら、転がり込んできたこの状況を『一晩だけでも』と愉しむことが出来るのだろうけど、私にはそんなことは無理。
だって私は―――
「冗談だ」
「はっ?」
「冗談だと言っている」
彼が言っていることを理解するまでの間に、たっぷり十秒はかかった。