マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
寝室の扉をそっと開け、リビングに少しだけ顔を出す。キョロキョロと部屋を見回すが、目当ての人物は見当たらない。
(高柳さんはまだ寝ているのかしら……)
佐知子さんとの通話を終えた時、スマホの時計が八時四十分を知らせていた。
佐知子さんはきっと前日の私のメールが遅い時間だったのを考慮して、八時半まで電話をかけるのを待ってくれていたのだろう。
(あとでかけ直すって言っちゃったから、高柳さんに口裏を合わせて貰えるよう、お願いしなくちゃ……)
ドキドキするような後ろめたいような気分になりながら
(彼氏と初お泊りのアリバイ工作を友達に頼む時ってこんな気分なのかな)
などと、つまらない妄想を働かせていたところに、キッチンの向こうの扉がガチャリと音を立てた。
「起きてきたのか」
「あ、…おはようございます」
「おはよう」
「寝坊してしまって、すみません…」
「いや、俺もさっき起きたところだ。ちゃんと眠れたのか?」
「はい。……あの、」
「洗面台空いたからどうぞ。顔を洗ったら朝食にしよう」
「はい」
話しはあるけれど、寝起きの顔をひとまず何とかしようと、彼の横を俯きがちに通り抜けて洗面台をお借りしに行く。
朝食の準備も手伝わなければ、と急いで水で顔を洗い手櫛で髪を整えた後、眼鏡をかける。コンタクトが合わなかったりした時の為に、ブラウンのボストン型眼鏡を鞄に入れて持ち歩いている。寝る前に使い捨てコンタクトを外したせいで薄ぼやけていた視界が、やっと良好になった。