マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
急いでリビングに戻ると、コーヒーの良い香りが部屋に漂っていた。
「砂糖とミルクは?」
扉の横にあるキッチンから声が聞こえ、反射的に「ブラックで大丈夫です」と答えてから声がした方に顔を向けた。
「~っ!」
うわっ、と上げそうになった声を我慢出来て良かった。
「もう用意できるから座ってて」
またしてもキッチンから掛けられた声に、私は止まっていた体を何とか動かした。
「お手伝いします」
「じゃあ、これを持って行ってもらおうか」
手渡されたのは二人分の皿とフォーク。私はそれを昨晩と同じローテーブルへ持って行った。
ローテーブルの上には既にパンが置いてある。お洒落な皿に盛り付けるだけで、コンビニで買った安いパンには見えないから不思議だ。
それぞれの場所にはグリーンサラダが添えられたオムレツの皿が並べられていたので、私はその隣に皿とフォークをそれぞれ配膳した。
「ありがとう」
後ろから掛けられた声に振り向くと、両手にコーヒーの入ったマグカップを持った高柳さんがこちらにやってくるところだった。
「こちらこそありがとうございます。色々と用意していただいて。朝から豪華ですね」
「豪華か?本当はスープも付けたかったが、間に合わなかった。悪いな」
「悪いなんて、そんな……」
休日でも自分では作らないような豪華な朝食に、しばし見惚れる。
テーブルの上に釘付けになっていた私に、「食べようか」と彼は言った。