マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
朝食を食べ終えてコーヒーのお替りを頂きながら、さっき佐知子さんから電話があったことを高柳さんに報告した。
「遠山本部長の奥様は心配していらっしゃったんじゃないか?」
「はい。私の無事を知ってほっとした様子でした」
「だろうな」
「それで…あの……」
「ん?」
言い出しにくかったが、佐知子さんとの電話でのやり取りを包み隠さず話し、電話を掛け直さなければならないことを伝える。そして私が言ったことの口裏を合わせて貰えるようお願いし、頭を下げた。
私の話を黙って聞いていた高柳さんは、私が話し終えるとすぐさま「分かった」と口にした。
「奥さんに電話を掛け直したらすぐに代わって欲しい。俺が話をしよう」
「お願いします」
その場で佐知子さんに電話を掛ける。コール音が三回目の途中で途切れ、彼女の声が聞こえた。一言二言だけ言葉を交わした後、すぐに高柳さんに代わる。
「高柳です。お電話お待たせしてしまい、申し訳ありません。―――いえ、大丈夫です」
電話の向こう側の佐知子さんの声は聞こえず、ただ高柳さんが返す言葉だけが耳に入ってくる。
「はい」「いえ、そのことでしたら―――」「ええ―――はい。わかりました」
そんな遣り取りを幾度か繰り返した後、彼は私へと携帯を返してきた。彼が携帯を指差すから、まだ通話が繋がっているのだと分かる。
「お電話代わりました。雪華です」
《雪ちゃん!高柳君と話を付けておいたわ。これで心置きなくフランスにも行けるわ》
「え?」
(“九州に居られる”の間違いでは?)
それを問いかける前に佐知子さんは《じゃあ高柳君によろしく》と言って通話を切ってしまった。
「切れちゃった……」
【通話が終了しました】と書いてある画面を見ながら呟く。ひとまず佐知子さんを安心させられたことにほっとした。