マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

数分後、気分を落ち着かせることが出来た私は非常階段をゆっくりと下る。
自分のオフィスの階まで近づいた時、下から誰かの声が聞こえてきた。

「仕事の後に食事でもしながらゆっくり聞いて頂きたくて……」

可愛らしい女の子の声だ。
こんなところで誰かに合うとは思わなかったけれど、社内なのだから無いわけではない。頭を下げて脇を通り抜ければいいやと、そのまま階段を下りようとした時、聞こえてきたもう一人の声に、私はその足を止めた。

「仕事の相談だと言うなら、社内(ここ)ですればいい。他の人に聞かれたくないからとここまで来たが、わざわざ社外で聞くことではないだろう」

冷淡なくらいに淡々とした声は、さっき一緒にランチを取った上司のもの。

「でも、その……食事をしながら話したくて……」

「………」

私はいつのまにか息を潜めて二人の会話に耳を澄ませていた。
何となく出て行きにくくなったのもあるけれど、来た道を引き返さなかったのは彼が何て返事をするのか気になったせいだ。
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