マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
“鉄壁統括”
女性の誘いをすげなく切り捨てる彼は、そう呼ばれているらしい。
けれどこの目でそれを見たことのない私は、半信半疑だった。
(だって……私を振った時はとても優しかったわ……)
綿雪の舞い降りる校舎の裏庭が脳裏に過ぎる。
困ったように下がる眦。頭の上に乗せられた大きな手のひら、そこから伝わる温もり。
「お願いします…一回だけでいいんです…」
耳に入った言葉に肩がピクリと小さく跳ねる。
昔の自分の声が聞こえたのかと思った。
けれどそれは現実の声で、あの頃の私なんか太刀打ちできない程色気のある声がねだるように次言葉を続ける。
「私……一晩だけで」
「分かった」
(えっ!)
相手がすべてを言い終わる前に告げた低い声に、私は目を見開いた。