彼の秘密を見つめてた
飲み会の度に、部長がくだらない冗談を言う。

『青井。宮川さんがいいじゃないかー』

私は決まってすぐに返す。

『私が嫌ですよ』

その時、いつも彼はほっとした笑顔を見せる。
私はその笑顔が嫌いだった。

彼が『そうですね』とは冗談でも絶対に言わないことを、私は知っていた。


彼は他部署に異動願いを出す時も、私に一番に相談したと言うくせに。
篠宮さんにもらったペンを出して『一番のお守りは、このボールペンです』って笑う男だ。



『宮川さんは好きな人とかいないんですか?』

そう無邪気に聞いてくる青井君も嫌いだ。

『今はいない。でも、私は、自分の手に入らない人は好きにならない』

青井君は怪訝な顔をする。

『手に入らなかったら諦めるってことですか?』

『私は、私のこと好きな人を好きになるわ』

青井君は少し考えて、名案を思い付いたように笑った。

『好きな人に好きになってもらう方がよくないですか』


好きになってもらえないことに、好きになってから気づいたら苦しいことを彼は知らない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「私は、二人が好き同士なの分かってたし」

「なんで分かるんですか?」
と不思議そうな表情を見て、一瞬青井君を思い出す。

「見れば分かる」
と、ぶっきらぼうに答えると、神谷が急に優しい顔になる。


「それだけずっと見てたってことですね」

「どういう意味よ」

「言葉のままです」


ずっと見ていた?
見ている訳がない。
彼が私の周りを彷徨いているだけだ。


だから、篠宮さんに『青井君は好きじゃない』と答えた。

私は三人で飲んだ時も一人で先に帰った。

篠宮さんの復帰日、有給中の青井君に『夕方、職場の最寄駅に来てほしい』と言った。


さっさとくっついて楽にしてくれよ。
そう思っていた。


楽になるって何だろう。
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