彼の秘密を見つめてた
「俺は、先輩の気持ち分かりますよ」

「いいよ、適当なこと言わないで」

「本当ですって」


そう言うと、神谷はすねた表情になった。

「でも、僕は、亜佑美(あゆみ)さんみたいにいろんな人のことを考えて見守る気はないですよ」

私の名前を呼んで、神谷はすっと手を伸ばした。

「俺は、好きな人のことしか見れないし、好きな人といるためなら格好悪くてもいいなって思ってます」

神谷の手が優しく、私の頭に触れる。



勝手に、青井君と秘密を共有しているつもりになってたんだ。

でも、いつだって主人公は二人で。
私は脇役にもなれなくて。
彼の秘密の恋を見つめていることしかできなかった。
そう認めたら惨めだから、私は彼を好きじゃないと言い聞かせていた。


それでも、今やっと認める。

私はずっと青井君を好きだった。

秘密を打ち明けられた時、他の人を好きだと確信したショックより秘密を共有できる喜びが勝るほどには。


でも、秘密はやっぱり二人のもので。

そこにあった秘密は、私が必死で隠し通した彼への想いだけだった。


ふと、彼の言葉がよみがえる。



私の頭に触れていた神谷の手を私はそっと握る。

「私、今度は好きな人に好きになってもらえるようにするんだ」

そう言ってきょとんとする神谷の手を投げるように戻すと、ちょうど彼の額にぶつかる。

「ありがとう」と呟いた。

「え?何て言いました?」

「なんでもないよ、ばーか」


今度は、秘密がいらない恋をする。



終わり
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