異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
第三章 小豆とあんこと「羊羹」
すぐに食べたいと言ったコンラートは、窓辺から離れてそそくさとテーブルの端に座る。メグミは慌てて豆大福が載った皿を彼の前に置いた。

どこにいたのか、少年のような年齢の侍従がコンラートにお茶を出す。そしてそのあとはすぅっと動いてその場からいなくなった。

コンラートは目の前の皿に盛られた豆大福を穴が空くほど凝視してから、添えてあるフォークを手に取り、半分にして一方を口に入れた。

メグミの緊張が極限まで高まる。

彼は、すぐ近くでメグミが見ていても頓着せず、豪快な感じで食べてゆく。この辺りはテツシバで見ていたコランと同じだ。

喉元がごっくんと動いてから、舌がちらりと出て唇を舐めた。

こういうのは、行儀が悪いとか、逆にこんないい男がすると艶めかしいとか、見ている者は様々に感じるのだろうが、メグミはひたすら彼の感想を待つ。

コンラートはお茶を一口飲んでから彼女の方へ顔を向け、そして一言。

「うまい」

ほぅ……と長い長い息を吐いたメグミは、へたへたと床に座り込んでしまった。

ははは……と朗らかに笑った彼は自分の斜め前、楕円形のテーブルの端に座る位置から左側にある椅子を指した。

「メグ。そこの椅子に座れ。話がある」

「はい。私もお聞きしたいことがあります」

「そうだろうな」

大きく笑うコンラートは、少々子供っぽくて可愛い感じがする。しかし、ヴェルムは大陸の中でも広い領土を有する強国であり、隆盛へ向かう勢いのある国だと近所の人からもジリンからも聞いた。

この強国を統べる彼が可愛い面もあるというだけの普通の人だなんて、あり得ない。

――黒獣王という二つ名の通り残虐とか冷酷だとか、戦いが好きだとは思わないけど、コラン様として店に来ていたときも、ただの人とは違って見えた。甘えたことを言ってはいけない相手だってことを、忘れないようにしないと。
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