異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
抹茶は新緑のころが似合う。五個ほどあった瓶を抱えて王城に戻ろうとすれば、馬車屋のエディに出くわした。
「明けまして……じゃなかった。そんな言葉はなかったわね。新しい年です、よろしくしてくださいね」
「僕の方こそ、よろしく……と言いたいところだけど、実は馬車屋は他の人に譲ることになったんだ。僕は実家に戻らなくちゃいけない」
「そうなんですか。こちらにいらしてまだ一年にもなっていないのに。寂しくなりますね」
知っている人が近くからいなくなるのはずいぶん寂しいことだ。メグミは下を向いて足先で土の道をトントンついた。
「メグミちゃんとはきっと、どこかでまた逢うよ」
「そうですか? うーんと……、たとえば、王城?」
エディはぶはっと吹いた。
「どうして、分かっちゃったの? メグミちゃんはそこまで勘が鋭くないと思っていたのに」
「ひどい。あのね。母さんが亡くなったときに、墓地からテツシバへ連れて来てくれたでしょ。王城へも送ってくれたじゃない。あとで考えたのだけど、あれってやっぱり、コラン様の指示だよね」
エディは、ははは……と笑って否定も肯定もしなかった。
「見張っていたわけじゃないよ。見守っていたんだ」
「どう違うの」
メグミも笑う。サヨナラをするなら笑って別れたい。
「僕はこれから数ある兄たちを排除しないといけないんだ。ちょっと大変なんだけどね。こちらにいる間に追い落とすネタはたっぷり仕入れた。コラン様……えー、コンラート様には感謝しているよ。だから一生懸命あの方のために動くつもり」
今度はつられ笑いではなく、彼女は静かな笑みを浮かべて頷いた。エディの目的は、兄たちを差し置いて家を継ぐことらしい。彼は、自分の正式名はエディール・アズ・グレイだと教えてくれた。二十五歳だそうだ。
最後に王城へ送って行くよと彼は言い、メグミもそれをお願いした。
「明けまして……じゃなかった。そんな言葉はなかったわね。新しい年です、よろしくしてくださいね」
「僕の方こそ、よろしく……と言いたいところだけど、実は馬車屋は他の人に譲ることになったんだ。僕は実家に戻らなくちゃいけない」
「そうなんですか。こちらにいらしてまだ一年にもなっていないのに。寂しくなりますね」
知っている人が近くからいなくなるのはずいぶん寂しいことだ。メグミは下を向いて足先で土の道をトントンついた。
「メグミちゃんとはきっと、どこかでまた逢うよ」
「そうですか? うーんと……、たとえば、王城?」
エディはぶはっと吹いた。
「どうして、分かっちゃったの? メグミちゃんはそこまで勘が鋭くないと思っていたのに」
「ひどい。あのね。母さんが亡くなったときに、墓地からテツシバへ連れて来てくれたでしょ。王城へも送ってくれたじゃない。あとで考えたのだけど、あれってやっぱり、コラン様の指示だよね」
エディは、ははは……と笑って否定も肯定もしなかった。
「見張っていたわけじゃないよ。見守っていたんだ」
「どう違うの」
メグミも笑う。サヨナラをするなら笑って別れたい。
「僕はこれから数ある兄たちを排除しないといけないんだ。ちょっと大変なんだけどね。こちらにいる間に追い落とすネタはたっぷり仕入れた。コラン様……えー、コンラート様には感謝しているよ。だから一生懸命あの方のために動くつもり」
今度はつられ笑いではなく、彼女は静かな笑みを浮かべて頷いた。エディの目的は、兄たちを差し置いて家を継ぐことらしい。彼は、自分の正式名はエディール・アズ・グレイだと教えてくれた。二十五歳だそうだ。
最後に王城へ送って行くよと彼は言い、メグミもそれをお願いした。