異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
どれほど過ぎたのか。窓の外が真っ暗になってさらに夜も更けてから、ベルガモットがやってきた。後ろに従えた三人の料理人が、それぞれ栗が入った袋を抱えている。かなりの量だ。

すぐに立ち上がったメグミに、ベルガモットが固い調子で言う。

「明日使う分だ。料理に入れるために今から皮を剥く予定だった。これをお前が一人で全部剥いたら、少し分けてやろう」

すぐ隣にいた者が驚いたようにして声を出す。

「一人で? これ全部ですか? 俺たち三人でやる予定なんですが。メグミ一人では朝まで掛かってもできるかどうか」

「黙れ。私がそう決めた」

厨房における料理長の言葉は絶対だ。特に実力を持った者には逆らい難い縦社会だった。メグミの場合が特殊なだけで、当然のように、下につく料理人たちの人事権も一手に握っている。

「外の皮も、渋皮も全部だ。ナイフを使いたかったら、使用を許可する。明日のシチューにもケーキにも使う。朝までに仕上げろ。それができたら、手でつかめる分を回す」

メグミは高い位置にあるベルガモットの目を見つめて、揺らぎのない声で返事をする。

「やります」

他に選択肢はない。
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